HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
「なんて無礼な奴じゃ、見よ、お腹が字になっとるっ」
「模様だろ?」
「純白の白猫に模様などあるか! そこいらの雑種と一緒にするでない!」
 同じ猫が何を言う。
 さらに言えば引きこもりじゃないか。他の猫なんて見たこともないだろう。

「おい。ご飯はまだか?」
 ……ああ、もう一匹いた。ただ飯食らいの穀潰し。
 こっちも同じ猫だが、やはり同じ模様がある。
 腹に間一文字。
 まるで縦長い角にぶつかったみたいだ。
「堕猫♀朝ご飯はいらないのか」
「堕猫言うなっ」
「ぷぷ。由緒正しき血筋でありながら、堕目出しとはな」
「何を言うか野良猫が!」
「んだとこらあ! 髭剃るぞ!」
「堕猫♂♀。朝食抜くぞ」
『一まとめにされた?!』
 実に喧しい朝だった。
 正直一人は淋しいものがあったが、こんな猫どもにかき回されるのはごめんだ。

 とっとと食事を用意する。
 一から作る気がないので簡単に牛乳注いで。
「コーン○レークかっ」
「わしらキャットフードだし!」
 猫なら黙って食え。
「肉を出せ!」
「酒を持て!」
 いい加減に沈めてやろうか、この雑種猫。

 先割れスプーンを握る。
 ひっ。
 短く鳴く猫二匹。
 危険意識だけは敏感で、そんなときだけ言うことを聞く。

 まったく、
  騒がしい朝である。


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