HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 カバンに教科書を詰め込んで、さすがに昼食を作る時間がなくて今日は市販のパンを買おう。
 そちらの方が安上がりだが。

 以前堕猫♂に問われた。

 Q.なぜパンを買わない?

 A.面白くないから

 神妙な顔で黙られた。その日は機嫌が良く、折角秋刀魚パンに挑戦したのに。
 焼き魚をコッペパンに挿んだ変わり種だか、なかなか美味しかった。
 ♀はしっかり食べた。
 ♂はゲテモノめ、と罵りながら完食した。
 そんなに変なパンだったか。
 むしろ市販は体裁とか売り上げを気にしてチャレンジ心と真心に欠けている。だから好かない。
「お前のこれに真心があるか?」
「食わせるぞ非常食」
 数々の挑戦形を指差す猫。
 カレーパンがあるからハヤシパンもできると思ったんだ。

 むきーっと膨れる二匹。寸胴が膨れて風船みたいだ。
「名前で呼べ!」
「われらはきちんと名乗ったろうが!」
 そんな義理はなかった。
 さらに覚える気もない。
「わしの名は」「われの名は」
 偉そうにふんぞり返る。
 実際同族の中では偉いらしいが人様からすれば所詮猫だ。

「プラクテ・アイオス・フラ・デ・スレイアン・ディ・セント・ラム・フィズ・レーヴェンス」
「アグリアンス・レーメ・ゼ・クリア・ミルキィ・ラヴィアンス・イ・ラ・パリス・キルクシア」
「うるさい。」
 途中で遮った。
 そんなじゅげむみたいに長い名前を猫に言えるか。
「うるさいって」
「人の本名じゃぞ?!」
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