HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 ぴっと指差す。
 ♂、♀、の順番で。
「シンヤとアサでいいだろう」
 何でそんな名前?! 二匹同時に驚いた。
 理由を問われても、インスピレーションが大事だった、としか言えない。

 靴を引っ掛けるように履く。
 急ぐ時間ではなかったが、ゆっくりしていられる時間でもない。

 ――車にひかれてしまえ。

 後ろから呪咀が聞こえてくる。無駄に長い名前よりいいだろうと思ったのに。

 ――死んでも夕飯だけは作りにこい。

 何とも欲求にあふれた呪いだ。所詮ケダモノか。
「留守番よろしく。大人しくしてたら晩ご飯は少し豪華になるかもね」
「いってらっしゃい!」
 へこへこと頭を下げる雄猫。
「お気を付けてご主人様!」
 へこへこと頭を下げる雌猫。
 実にわかりやすい二匹だった。
「それじゃあ」
 扉に手を掛ける。差し込んでくる朝日がきつい。それでも、学校に行くことは日課。

「いってきます」

 自分の一日は
  こうして始まった。
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