HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
「しかし気にはならないかね?」

 ――カツカツ……

「……何がですか?」

 ――カツカツカツ……

「何故堕天使なるものが存在し、また呼ぶようになったのか。それは悪魔も同じだ。何故『悪い魔』なのか、誰が呼び始め、如何にして嫌悪したのか、すべては昔が知っている。だが我々には知る術がなく、知ったとしても確ある理論と証明できない。世論がまず否定するからだ。民主主義は嫌いだよ、私は」
 指定された教本のページには、悪魔とはどういう存在か。一方的に罵った解説と歴史が綴られていた。
 先生の言葉なんてかすりもしない的外れ。
 でも、その一語一句を聞き逃せない。

 ――カツカツカツカツ……

 左手に本を、右手にチョークを、口で持論を。出来ない事は料理と禁セクハラだと自称するだけはある器用さだった。
 だからと言って……

「何で黒板で保健体育っ」

 しかも性教育。
 教科書の挿し絵をなぜチョークで描くのかっ。
 先生は、フム、と腕を組んだ。
「いいかね、二次成長期は」
「今は世界史の時間ですし今週の保健体育は終わりましたっ」
「では授業内容を変更しよう。モデルがほしいな。脱いでくれ」
「絶対にいやです!!」
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