絶対零度の鍵
兄貴は椅子に深く座り込むと、うーん、と唸った。


「一体、どういったことに巻き込まれてこんなことになったんだか…」


そんな兄貴を横目に僕は部屋の時計を確認した。


午前0時を過ぎている。


「じゃ僕兄貴ん家に帰ってるからさ、あとよろしくね。」


右手でお願いと拝みながら、左手は家の鍵をくださいと掌を見せた。


「は?」


兄貴は目を丸くして驚いたように僕を見る。


「お前……逃げるつもりだろうけど、許さないからな。元はと言えばお前が公園に寄り道なんかしてるからこんな面倒なことになったんだろ?真っ直ぐ家に帰れば良いものを…」


やばい、お説教が始まる気配がする。

兄貴は真面目だから、こういったことにスイッチが入ると、とことん長い。



「わ、わかった、そうだよね。うん。悪かったよ、兄貴。もうしないから。」



早いうちに謝っといた方が、得策だ。


僕は左手を右手に合わせて物分りの良いフリをした。
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