絶対零度の鍵
「右京、電車に乗るから、こっちだよ」
朝の準備に取り掛かっている八百屋のおばちゃんの顔をじとーっと見ている彼女を引っ張って改札に連れて行く。
「ねぇねぇ!クミ!あのおばちゃん!氷細工のおばちゃんにそっくりなの!」
目を輝かせて言うが、僕にはさっぱりわからない。
誰なんだ、それは。
軽く眩暈を覚えつつ、右京を待たせて右京の分の切符を買ってやると、彼女の好奇心は『電車』というものに移り、先程とはまた違う輝きを顔から出しつつ、ホームに入ってくる電車を待っている。
毎日の通勤通学に疲れきった人々でごった返す中、わくわくしながら新品の制服を着て立つ美女は見ていておかしかった。
かなり急いで作らせた制服は、兄貴から届いた。(おかんには学校から貸与されていると話しておいた)
兄貴には留学生と説明したことをメールで伝えると、高校の手続きもなんとか終わったぞと返ってきた。
そんなこんなで右京は僕と同じ高校に通うことになったのだが―
「卓毅!」
右京を眺めながら思いを巡らしていると、背後から聞き覚えのある声が僕を呼んだ。