絶対零度の鍵
何言ってんだよ。

両腕を膝の上にのっけて、その両手で自分の頬を支え、座り込んでいる右京に文句のひとつでも言ってやろうかと一瞬目をやる。


その一瞬に、右京はパッと片手の人差し指を突き出し、僕に向けてクルクルっとまわした。


例えるなら、トンボの目を回すためにするような感じで。


―まずい


そのことに気を取られて、次に繰出される小松のジャブを避けられない事実に冷や汗が出た。


来る。


思わず目を瞑る。


全くと言っていいほど構える事ができなかったので、僕の顔面が腫れ上がることは容易に想像できた。


流血は免れない。


…………


筈だったのだが……。


…………


……





いつまで経っても衝撃を感じられない。


無意識に食いしばった歯に気づく余裕すらある。


もしかして、僕意識がもう吹っ飛んでるのかな?


考えてみれば、先程まで聞こえていたグランドの声も、


体育館からの音も、


小松の息遣いも、


なんだか耳に入ってこない。


静寂が辺りを包んでいる。
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