絶対零度の鍵
「…でも僕は…」


無抵抗の人間に手を下せる程鬼じゃない。


「かー!生ぬるい!生ぬるいわね、人間は!」


地団駄を踏む子供のように右京が騒いだ。


僕は目の前の光景も信じられないし、


こんな暴力女も信じられない。


だけど、否定し難い事実が正に今、起こってしまっている。


「仕方ないわね。ちょっと、クミ。」


右京はそう呟くと僕に指示する。


「その男の脇に立って」


「脇?」


「うん。平行するように。そうそう、そんな感じ。それで…」


言いながら右京は自分の腕を上げて、振り子の様にゆっくりと揺らし、ちょうど中途半端な場所で止めた。


「こんな風に腕をまげて」


訝しがりながらも、言われた通りにする。


「角度がね、えっと、もちょっと、、このくらい。そう、そうそう」


微調整が終わると右京は満足げに微笑んだ。
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