絶対零度の鍵
本当に一瞬で、少し離れた場所で傍観者となっていた右京は、僕と小松との距離をなくす程に近づき、


「ひっ」



僕が瞬きを一度して、再び目を開いた時には―


ドッガシャーン!


空気は流れ、小松は吹っ飛んでいた。


思いっきり体育館裏にある倉庫の扉に投げつけられた小松は今度こそ、気を失う程のダメージを食らったらしい。



「卓って結構やるのな。俺の知らないお前を見るようだったぜ。」


本気で驚く溝端の声に、我に返った僕は、


「違うよ。あれは俺じゃ―」


投げる前と同じ位置に座っている彼女を目で認めた途端、否定の言葉を飲み込んだ。


悠長に猫なんて触ってやがる。


僕はなんだかやるせない気持ちになった。


そして、いつの間にか多くなっていたギャラリーと、鬼の形相をしている先生に捕まらないよう走って逃げた。


右京はそんな僕の後ろを、ゴキゲンに鼻唄なんて歌ってついてきた。


まだまだ暑い、真夏の夕方。
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