絶対零度の鍵
「卓毅の邪魔しないでよね」


「うっさいぶす」


「この…」


右と左で散る火花は僕に直撃していることを、このふたりは気づかないのだろうか。


僕は極力脇を見ないように気をつけ、そのせいかホワイトボードに集中して今までにない位に勉強した気分になった。


良いんだか、悪いんだか。


帰り道、同じふたりに挟まれながら僕はこっそり溜め息を吐いた。



「「今溜め息吐いたでしょ!」」



…なんでバレたんだろう。


同じタイミングでこちらを睨みつける右京と尭に怯えながら、僕は息を潜めて家路を急いだ。


早く帰ってベットに入って寝てしまおう。


今日のことなんかきれいさっぱり忘れてしまおう。



けれど。



疑いようの無い事実だけは、忘れられる筈がなく。


無かったことになんてできそうにもなく。


自分の将来なんて考えたこともなかった僕が。


初めてといっていい位。


自分のこれからについて考える羽目になった。
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