絶対零度の鍵
あてもなく歩き出しつつ、今度は僕が考える。
「将来のこと、考えたって、意味があるとは思えないんだ」
右京も同じようにぷらぷら隣を歩き、首を傾げた。
「なんで、意味が無いの?」
陽の光の眩しさに、目を細めつつ、僕もうーん、と唸る。
「例えばさ。」
右京と向き合えるように振り返って、後ろ向きに歩いた。
「今日、これから僕は死ぬかもしれない。そうすると、僕が今までもしも勉強を必死に頑張っていたとしても、良い大学に入れることが確実になっていたとしても、その努力は泡になる。ならいっそのこと―」
ここまで言うと、僕はまた前を向く。
「最初から努力なんて格好悪いことしないで。楽に、楽しく、一日一日を過ごせれば、それでいーんじゃないかって僕は思うんだよ。なんでもほどほどにね。」
右京より前に歩いているから、右京がどんな表情をしているのかは見えない。
暫く沈黙が続き、お互いの歩く足音だけが聞こえる。
「…親は、かなしむんじゃないの?」
やがてぽつり、右京が訊ねた。