絶対零度の鍵
「あたしは自分の世界が好きよ」


僕の変化に気づく様子もなく、右京は僕に追いついて、顔を覗き込む。


「宝石みたいに輝くあの場所が好き。自分のことも好き。」


ふふ、と子供みたいに笑う右京を、少し羨ましいような気持ちで見つめ返す。


「あ。」


その彼女の視線が僕の向こう側を見て、笑い声もピタリと止んだので、つられて同じ方向を振り返った。


近年の増税の煽りを受けて、かなり減った貴重な街の煙草屋。


彼女の視線はそこに釘付けになっていた。


「…どうかしたの?」


気になって訊ねると、はっとしたように我に返った右京が指を差す。


「あそこ。」


彼女の指の先を辿った先には、黄金色に輝く毛の長い猫が置物のように店先に座り込んでいた。


その目は碧色で、きらりきらりと輝いている。
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