絶対零度の鍵
どのくらい走ったのか。


せいぜい10分くらいか。



黄金のふさふさした猫は、僕らが通ることのできない隙間などには入らず、



姿を消すようなことは、決してなかった。



それどころか、時々こちらを振り向いては、ちゃんとついてきているのかを確認するような素振りをする。


そして、今、工場が立ち並ぶ一角にひっそりと佇む、もう長いこと使われていないだろう古びた煉瓦造りの小さな工場の前で、猫はぴたりと座り込み、こちらが追いつくのを待っているようだ。



「全く。そうならそうと言ってよね!」



右京が憤慨している。


僕はどちらかと言えばそんなことよりも、あれだけ早く走ったこの子が、息切れのひとつもしないで怒っていることが信じられない。


「う、きょっ…はっ…はっ…早い……」


怒るどころか、話すエネルギーすら、僕にはもう残っていない。
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