絶対零度の鍵
廊下で一人、溜め息を吐き、昔兄貴が使っていた隣の空き部屋(今は右京の寝る部屋になっている)に入ると、シャツと短パンに着替える。


僕は自分の部屋で着替えられないのか―


色々おかしいなと考えつつ、下に降りてリビングに向かった。


「でも珍しいわねぇ」


湯気の立つ食卓に、手を合わせていただきますと呟き箸を付けると、おかんが湯呑みにお茶を注ぎながら笑う。



「動物が好きでもないあんたが猫拾ってくるなんてね」



そうなのだ。


僕は動物が好きじゃない(自分も動物だといわれればそうなのだが)。


犬とか猫とか、飼いたいと思ったことが無い。



その僕が、何故、猫を家に入れたのかと言うと―



僕は沢庵を口に運びながら、あの日の光景を思い浮かべる。
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