絶対零度の鍵
「悪かった。機嫌を直せよ。」
蓮貴はそう言うと、腰を上げて少女に白い花をひとつ、差し出す。
「翠(すい)によく似合うと思ったんだ」
優雅な仕草で、少女の髪に挿す。
「あ…ありがと」
翠と呼ばれた少女は顔を真っ赤にさせて俯いた。
「んー、じゃ、いくかー」
蓮貴は伸びをひとつして、母の待つ稽古場へと向かった。
その後ろを、翠がトコトコと付いて行く。
誰も居ない静かな畦道を、二人の小さな影がゆっくりと初々しい距離を保って、動く。
穏やかな、昼下がり。