絶対零度の鍵
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「…貴方は随分と能力を高く持って生まれたのね」
息切れする母を前に、蓮貴は汗ひとつ流さず、呼吸ひとつ乱さず、穏やかな笑みを湛える。
「そうでしょうか。それならば、光栄です」
一礼して、稽古場を後にする。
実際なら3時間続く筈だった稽古を10分で終了させた。
母に背を向けた瞬間に、貼り付けた笑みを解き、冷め切った感情で思う。
教える立場の母に、能力がないのだから仕方ない、と。
「…つまらないな」
ぼそっと口から零れた言葉が、ついつい本音になる。
力なんて、なくなってしまえばいいのに。
そうしたら、自分は何処へ行くだろう。
これさえなければ。
何処へでも、行けるのに。