絶対零度の鍵

裏山は小さいが、意外と高く、景色も抜群だった。

空間の世界も、ここだけは昼と夜がある。

但し、ここに居る者達は特殊で、血統はひとつ。

それ以外の者は立ち入ることの出来ない土地だった。


「夕焼けはさすがにまだだなぁ」


翠の作った丸い焼き菓子を口に放り込みながら、蓮貴が呟く。


「ねぇ、蓮貴、訊いてもいい?」


そんな蓮貴の横で、遠慮がちに翠が言葉を発する。


「…?何を?」


いつになく、小さくなる彼女に一抹の不安を感じながら、蓮貴は平静を装って訊ねた。


「…温度師の稽古って、何をしているの?」


一族でも、温度師のことについて詳しく知る者は少ない。


特に翠は女でもあったために、無関係に等しい。


温度師は、男から選ばれるからだ。
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