絶対零度の鍵


「何よぅ、怒らなくたっていいじゃない、けち。」


翠は口をとんがらせてそう言うと、どこかへ行ってしまった。

その後ろ姿を追いかけることができずに、蓮貴は黙って空が色づいてくるのを待った。


温度師の禁忌を初めて聞かされた時、一体自分は幾つだったのだろう。


きっと擦り込みのように、母の胎に宿った時から聞かされていたのではないだろうか。


物心つく頃には、それは絶対となった。



その中のひとつが―




「…誰をも、愛すべからず」



温度師となる者は、生涯独身を貫く。

他者の存在によって、穢(けが)れることの無い為だ。

それだけでなく、自分の心を動かされることがあってはならない。

それがやがては世界を揺るがすことに繋がる。

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