絶対零度の鍵
「っ嘘だ」
うだるような暑さの中、城の中庭まで来ると、蓮貴は立ち止まった。
頬を温かい雫が伝う。
拭うこともせずに、いや、泣いていることすら気づかずに、蓮貴は嘘だと繰り返し自分に言い聞かせていた。
思い出すのは、幼い時、彼女の栗色の髪に挿した白い花。
老人の話が嘘じゃないことは分かっていた。
だって、あの花は―
翠と共に成長し、翠が元気で居れば居るほど美しく咲くよう、術をかけておいたもの。
それは逆を言えば、彼女が消えれば花も枯れるということ。
翠が―
もう、居ないなんて。
そんなこと。
あるわけないだろ?
信じたくないのに、皮肉にも自分のしたことが、それを裏付けている。