絶対零度の鍵




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空っぽになった頭で、見るともなしに空を見上げると、鳥が数羽飛んでいくのが見えた。



自由に、なりたい。



温度師は、そう思った。


今更、もう遅いことは十分にわかっていた。


どんなに自分に能力があろうとも、


時間は、取り返すことができない。



ならば、いっそ―



17年間、肌身離さずに持ち歩いていた、一冊の古びた本を取り出し、それを眺めた。


やがて、呟く。



「温度師という呪われた者など、なくなればいい」



何かを決意したかのように、いや、諦めたかのように、冷めた目をして、温度師は空間を切り開くと姿を消した。



後に残るのは、灼熱の陽の光。



何事も無かったかのように、穏やかに流れる、風。
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