絶対零度の鍵

それは、先王の時代。



空気を司る世界は、様々な生命が存在する空間を支配している。



数は無数に在るが、温度師が首からぶら下げている数々の温度計が示す各空間が、特に主要な管理地である。



その中のひとつが消えたからと言って、この世界の住民は痛くも痒くもない。



己の世界は存在し続け、何も変わらずに生活していける。



ただ、ほんの少しだけ、物の発注が減る位である。



しかもそれが、どこかの世界が滅んだ影響だとは夢にも思わない。



だから、雨が降ったからと言って、それが不吉と結びつかない民は騒ぎ立てることはしない。



珍しい、何かがおかしいんだな、と感じる程度なのだ。



だが、統治する者にとっては大問題である。



一つの空間を滅ぼすという事は、王の価値を失う事と言っても過言ではない。



現に、先代はこの出来事によって、王権を剥奪された。
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