絶対零度の鍵


「……わかっておる。じゃが、あそこまで強大な力の持ち主にワシは今まで会ったことがない。こんなに近くにいて何も感じなかったのが不思議な位じゃ。現在の温度師など足元にも及ばぬ。」




遠い目をしながら鍵師が言う。



夏の風が、僕等の合間を縫って髪を揺らしていった。




「さっきの…温度師はどうなったの?」




恐る恐る僕は訊ねる。



消えたとしか思えなかった。


どこか他の場所に行ったのか、それとも最初から居なかったのか、と思うほどに。




「抹消された。一瞬で、な」



静かな声で息を吐いた鍵師。



「そんな…それって…つまり…」



「どこの世界にも空間にもあいつは存在しなくなった、ということじゃ」




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