絶対零度の鍵


幼少期にこういう泥とか、這い蹲るとか、暗くて狭いところを行ってみる、とか、そういうのを経験しなかった僕は、どうしたってこういうのに向いていないからだ。



きっと無事に光の下に出た暁には、僕はあちこち汚れて、擦り剥いて、散々な様子をしているのを左京辺りに笑われるんだ。



はぁ、とこっそり溜め息を吐くが。



「ちょっと!クミ!もっと楽しみなさいよ!」



元々不気味なほど静かな場所なのだ。


気付かれないわけがなく。


右京に渇を入れられる。


だけど。



どこをどう見たら、この暗闇の中を匍匐前進する状況を楽しめるというんだろう。



僕は自分のツイてなさをここにきて呪った。

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