絶対零度の鍵
「この国の中枢部分。絶対零度の鍵はこの場所で使うの。」
何故だか声を潜めて、右京は僕に教えてくれる。
「…きれいだね…」
思ったとおりのことを、口に出せば、右京が笑ったのがわかった。
「そうでしょ?だから、クミに見せたかったの。私の大事な場所。私の―」
そこで一旦言葉を止めると、右京は暗がりの中で僕の目を捕らえた。
傍を通った星の光が一瞬、右京の美しさを照らす。
「守りたいモノ。」
呟かれた言葉はたった7文字の短いものだったのだけれど、どうしてかズシンと僕の心に重く圧し掛かった。
「クミは?」
「…え?」
「クミの、守りたいモノってなぁに?」
右京の質問に、僕は答えられない。
僕が守りたいモノは。
その答えは―
右京に比べたらすごく身近で、すごくちっぽけかもしれない。
世界のどこかの景色を守りたいとか、人々の生活を守りたいとか、そんなことじゃなくて。
ただ、目の前に居る君を。
守れたら、僕はそれで満足だ。
―なんて、言えるわけないだろう。