絶対零度の鍵
掴まっていた絨毯はいつの間にか僕等の手を離れ、窓際に滑ったり、廊下側に滑ったりしている。


僕等も、身体のあちこちを角にぶつけたりしながら、何もできない。


幸い、右京の部屋には、がちゃがちゃするものが少なかったため、割れる音は照明ぐらいだ。



大きなテーブルも、椅子もないからその点ではこの部屋に居て安全だと言える。


船酔いしている時のような気分の悪さが残るがまぁそれは良しとして。





ただ―



「うわぁっ!」



一段と大きく揺れた際に、僕は部屋の窓際までまた流される。




「おわわわ…」



もう何度目かの揺れに耐えられなかったのか、バルコニーへと通じる窓際の扉がばかっと開いてしまった。




僕は吸い込まれるようにそこに滑っていく。




「卓!!!」



溝端がどっからか呼ぶけど、振り向きようがない。


このすべる力には抗えない。



確か右京の部屋は高い位置にあったような気がする。



いや、それどころか、このすべての建物自体が、高台ではなかったか。




―無理だ、死ぬ。



僕は滑り落ちるスピードと恐怖に目を瞑った。
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