絶対零度の鍵
蓮貴は微動だにせず、何も言わない。



怒っているわけでもない。


笑っているわけでもない。



ただただ、穏やかな顔をして、蓮貴は僕等を見つめていた。




「ちょっとぉ!何とか言ったらどうなのよ!?」



この風だから、右京みたいに叫んだら、口の中に砂とか入っちゃうだろうな。



それより乾いちゃうんじゃないかな。




僕は現実逃避を始めているのだろうか。



やけにどうでもいいことが、気になる。



心臓はさっきからずっとドクドクと早く動いている。





だって。




蓮貴は、やっぱり。



僕の兄貴と、何ら雰囲気が変わってなかったから。




あぁ、ひとつだけ。




物悲しそうな空気を纏っていることが、兄貴でいたころと、違うみたいだ。
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