絶対零度の鍵
「なんだよ、気を失ったみたいだな。」





青年は、溜め息を吐きながら、広げてあった本をパタンと閉じた。



今日はもう、この本を再び開く余裕はなさそうだ。





「…怪我してるのか…?」






様子が変なことには気付いていたが、パッと見、倒れている男は何の外傷もないように見える。




それでも、抱えている痛みが尋常なものではないということが、様子から伺えた。





「仕方ない」





池のほとりで青年はパンパンと衣服に付いた葉を払い、立ち上がる。




そして、左手に本を抱えると、右手の人差し指を突き出し、倒れている男の周りを囲むようになぞった。




「行け」



呟くと、男の周りは切り取られたように浮かび上がり、一瞬で姿を消した。



それを見届けると、青年も土手を登り、家路を歩く。



池のほとりを静寂が支配する。




白い花が、さわさわと風に触れられて揺れる。



物語は、繰り返される。


それは必然に。



誰からも、気付かれることなく、ひっそりと。
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