絶対零度の鍵
「おやおや、お目覚めになられましたか。」
皺嗄れた声と共に、障子を引いたような音と、人の気配がした。
痛みに顔を歪ませていると、視界に老婆が入ってきた。
「まぁ、、少しは顔色が良くなったみたいですねぇ。だけどまだ身体は動かさない方がよろしいかと。ひどい傷を負っていらしたから…」
同情するように、顔を歪ませる。
「あ…の、、ここ、は…?」
自分でも驚くほど、ひどく小さな掠れた声だったにも関わらず、老婆はきちんと聞き取ったらしい。
「ここは、沙羅(しゃら)様の邸宅でございます。蓮貴様が貴方様をお運びになられたようですよ。」
「れん…き…?」
頭の隅にひっかかるような、名前だった。
「蓮貴様は術をお使いになられたので、まだ帰られてはおりませんが…」
老婆がそこまで言った所で、何やら遠くで物音が聴こえる。
察するにかなり広い建物にも関わらず、僅かな音もわかるほどに、辺りはひっそりと静まり返っていた。
「あら、ちょうどお帰りになられたみたい…ちょっと失礼致します。」
彼女はそう呟くと、いそいそと立ち上がって出迎えにいったようだ。