絶対零度の鍵


老婆の足音はパタパタとしていて、見た目と反し、軽やかだった。


遠退いていくその音、それ以外は確かに聴こえなかった。



それなのに、僕が瞬きを一度して開いた時には、男が覗き込んでいるのが視界に映っていた。



「ひっ!!!」



余りの恐怖に思わず息を呑む。


すると、男は不愉快そうに眉を寄せ、




「俺は、化け物か。」




と忌々しげに呟いた。




「あ…君は…」




よく見ると、気を失う前に脇で本を読んでいた青年ではないか。




「身体の痛みは、どうだ。治癒院の薬師に診てもらったそうだから、もう暫くすれば治まるだろう。」




不愉快そうな顔とは裏腹に、青年は親切な言葉をかけてくれる。


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