絶対零度の鍵
白い花に籠められた想い
蓮貴の力を見てから何日か経った。
一度、屋敷を案内してもらったことがあったが、広すぎて途中で棄権した。
離れには、稽古場みたいなものがあって、もうほとんど使われていないのだと蓮貴が教えてくれた。
もう、師がいないから、仕方ないのだと。
ちなみにこの広い屋敷には蓮貴と使用人だけなのかと思っていたが、母親も居た。
門の傍でちょうど出かける所に僕等と出くわしたようだった。
この事実に僕は結構驚いて、蓮貴にそっくりの黒髪の美人だったのを確認し、蓮貴の容姿の良さに納得した。
お世話になっている御礼を伝えたかったのだが、母親という人は蓮貴を前に深々と頭を下げていたために、叶わなかった。
その傍を蓮貴は何食わぬ顔で通り過ぎて行き、僕はそれを追いかけながら、彼の複雑な胸の内を慮った。
父親も居るらしいが、役人で多忙を極めており、そうそう家に帰ってくることはないらしい。
言葉には出さなかったが、青年の持つ孤独を垣間見たような気がした。