絶対零度の鍵
「水…窪み…」
暫く思案していた玄は、突然「ああ!」という声と共に、ぽんと手を叩いた。
「きっと、蓮貴様がお好きな場所でしょう!えぇ、あそこならわかりますよ。幼い頃からよく通っていますゆえ。」
「良かった!そこはここから近いですか?」
僕はほっとしたのもあって、笑みを溢しながら訊ねる。
「元々狭い村ですからねぇ、端から端まで行っても一日あれば着くくらいです。そこも大した距離じゃないですよ。門を出て右にまーっすぐ行けば、見えてくるでしょう。」
玄もにこにこと親切に教えてくれながら、手際よく食器を片していく。
「ありがとうございます。」
カチャカチャという食器の音を、心地よく感じつつ、僕は自分を探さなくてはと考えていた。
記憶はカケラさえも、僕の前には現れてくれず、ひっそりと影を潜めている。
まるで、隠れているかのように。
思い出されることを、恐れているかのように。