絶対零度の鍵
栞に貼ってあった小ぶりなその花は、特徴という特徴は何もなかった。


むしろ自己を主張しない、控えめな花だった。


それを思い出してか、翠は、



「あぁ、そういえば、咲いている所を見たことがないんでしたね。」



と手を打つ。



「あれの咲いている所は、きらきらと輝いて、それはそれはキレイなんですよ。」



「…でも、その花のこと、翠はどうして知ったの?」



翠はまだ小さな子供だ。


他の家の者が寝ているこの時間帯に、一人で歩いていることなどあるのだろうか。




「あー…」



尭が真っ直ぐに翠を見つめると、彼女の視線が泳いだ。




「大人ってなんでこんなに色々わかっちゃうんですかねぇ…」



やがて、観念したかのように呟いて、べっと舌を出す。



尭は決して自分が大人だとは思っていなかったが、このくらいの子からすれば、なるほど自分は大人なんだな、と内心苦笑した。
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