絶対零度の鍵

「あの花がね…間違えて昼間に顔を出しちゃったことが、あったんです。」



少し、照れくさそうに目を伏せると、翠は尭より少し先を歩く。



「勿論、私はその場にちょうど居たわけじゃなくて―、たまたまそこに居た友達が、それを私の髪に挿してくれたんですよ。」



その時を思い出しているのだろうか、恐らく無意識に翠は自分の髪を撫でた。




「似合うって言って。初めて見た花だったし、すごくきれいだったから、その後も探したんですけど…見つからなくて…調べたら、本当は寒い朝方にしか、咲かない花だって知ったんです。」




少し嬉しそうで、でもその中に切なさを含む表情は、尭にはピンとくる物があった。




「その、、友達って、男の子でしょう?」



微笑ましく思って訊ねると、少し先を歩いていた翠が急に立ち止まる。




「お姉さんってすごいですね。なんでも分かっちゃうんですね。ついでに教えておきますけど、ここの家の子ですよ」



彼女が小さく指差した先には、昨晩の桁違いの豪邸があった。

< 581 / 690 >

この作品をシェア

pagetop