絶対零度の鍵
「んー…そうじゃなくて…」



言葉を濁す翠。


どうやって言えばいいか、考えあぐねているようだ。



「彼は、、才能があるから…温度師になる人だから…」



やがてぽつり、ぽつりと話し出す。




「どうして?それでもいいじゃない!彼も翠のことが好きかもしれないよ?」



「そうだったら、嬉しいけど…でも、どうせ、叶わない…」




どこか暗い表情の彼女に、尭は小さな胸騒ぎを覚えた。




「温度師って、、なったら村から出て行くらしいので…」



「え?」



「普通とは違って…ずっと、お別れなんです。二度と…帰ってこないんです。」




だから、いつ来るか分からない瞬間の為に、今のままで過ごしたいと翠は話した。



駄目になってしまったら気まずいし、上手くいったとしてもいつかは壊れてしまう。



どうすることもできない淡い恋心は、少女の心を蝕み続けているらしい。
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