絶対零度の鍵
尭には翠の気持ちが手に取るようによく理解できた。


けれど、今の自分はその選択を後悔し始めていた。



―私も。


こんなことになるんだったら、伝えておけばよかったな。卓毅に。



ぎくしゃく、とか、上手く行く行かないとか、そんなこと考えずに。



小さな頃からずっと一緒だった幼馴染みは、いつからか何を考えているかわからない男になった。



時折つまんなさそうに歩いている姿を見ると、苦しくなった。



頑張れば何でも持っているのに、適当にゆらゆらとしていた。



中でも泳ぐことは大好きだった筈なのに、高校でも部活に入らなかったし、スクールも辞めていた。



気になって気になって仕方なかった。



なのに。



突然の転入生が―右京が来てから、少しだけ、卓毅が変わった。




ほんの少しだけど。



楽しそうだった。
< 587 / 690 >

この作品をシェア

pagetop