絶対零度の鍵
「ねぇ…、翠。」



お互い視線を交わすことなく、足元にある草や花をいじる。



「明日、世界が終わるとしたら、どうする?」



「…え?」



翠は顔を上げたのが気配でわかった。



「例えば、明日―私が突然居なくなる。そう知ったら、どうする?」



月明かりが、薄らいできた。


花の光も和らいでいく。



「私は、翠に、『ありがとう』って伝えるな。」



そろそろ、陽が昇ることを感じながら、尭は続けた。




「詞(ことば)って、だから、あるんだと思わない?」




「…どういうこと、ですか?」




秋のような風が、池の辺の草花を揺らしていく。



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