絶対零度の鍵
「さよならが、あるから、詞があるんだと、私は思うの。」
そこまで言うと、尭も顔を上げて、翠を見た。
「別れがあるから、詞があるんじゃないかなって。」
自分の口から零れた言葉は、尭自身へ言い聞かせているものでもあった。
「伝えておけば良かったって思う時が、絶対来ると思うの。だから、後悔しない為にも、私は翠にそれを教えておくね。」
もしも自分に妹が居たなら、やっぱりこういう風に恋の話をしたんだろうか、とどこかで思った。
「少し、難しいですけど…」
翠がおずおずと口を開く。
「お姉さんの言葉、覚えておきますね。」
「ん。」
少し照れ臭い気持ちになりながら、尭は小さく頷いた。
「っと、いけない。お姉さん、早く家に戻りますよ!朝ごはんの席に居なかったら、内緒で外に出たことがバレて怒られちゃう!」
「え!内緒って…!もしかして言ってないの?!」
突然の告白に、尭はぎょっとした。
「お姉さん!走って!」
「ええぇぇぇぇぇーー!!」
やだぁーもう。と言いながら、尭は自分がこの状況を案外楽しめていることに気付く。
上着はもう要らない位、陽射しが暖かく降り注ぎ始めていた。