絶対零度の鍵
以前と同じように、広すぎる部屋には、沢山の書物と机があった。
今日も隅にある一輪挿しには白いあの花が元気に咲いている。
ただひとつだけ、違うのは。
僕は一直線に、机の上に置かれた書物に眼をやった。
濃紺の、古びた書物。
それは、いつも蓮貴が肌身離さず持っている本に違いなかった。
いつか、池の辺(ほとり)で蓮貴が読んでいるのを見かけてから、ずっと気になっていた。
ただ、彼が人目を憚(はばか)るようにして読んでいるように思えた為に、訊ねるのも気が退けたのだ。
―一体、何の本なのだろう。そんなに面白いんだろうか。
少しだけ、見てみよう。
何故だか手が震えたが、僕はその場にしゃがみこんで、じっとそれを見つめた。
そして、朱色で書かれた表紙の文字を指でなぞった。
「持出し、、禁止…?」
未だに記憶が戻らない僕は、自分に学問があったのかどうかがわからない。
そのため、もしかしたら字が読めないかもしれないと懸念していた。
「読めた…」
ほっと安堵する。
今日も隅にある一輪挿しには白いあの花が元気に咲いている。
ただひとつだけ、違うのは。
僕は一直線に、机の上に置かれた書物に眼をやった。
濃紺の、古びた書物。
それは、いつも蓮貴が肌身離さず持っている本に違いなかった。
いつか、池の辺(ほとり)で蓮貴が読んでいるのを見かけてから、ずっと気になっていた。
ただ、彼が人目を憚(はばか)るようにして読んでいるように思えた為に、訊ねるのも気が退けたのだ。
―一体、何の本なのだろう。そんなに面白いんだろうか。
少しだけ、見てみよう。
何故だか手が震えたが、僕はその場にしゃがみこんで、じっとそれを見つめた。
そして、朱色で書かれた表紙の文字を指でなぞった。
「持出し、、禁止…?」
未だに記憶が戻らない僕は、自分に学問があったのかどうかがわからない。
そのため、もしかしたら字が読めないかもしれないと懸念していた。
「読めた…」
ほっと安堵する。