絶対零度の鍵
バン!!!
大きな音と共に、叩いていた扉が突然開いて、僕はよろめいた。
「蓮…貴…」
漆黒の瞳の彼と目が合った。
「蓮貴様!お待ちください!」
長身の男が後ろから慌てて呼び止める。
蓮貴は何も言わずに、その場に袈裟を投げ捨てると、藍色をした中着だけで走り出そうとする。
「待って!」
僕は必死で片手に握り締めていた文を、蓮貴に差し出した。
「翠から預かった…」
僅かに首を傾げていた蓮貴にそう言うと、彼は小さく頷いて受け取った。
そして今度こそ、走り出す。
雪はとっくに止んでいたが、日が暮れて居る為に、辺りは薄暗い。
傷がじんじんと痛むのを我慢しながら、僕は無言で蓮貴の後ろ姿を見つめた。
すると、彼が走りながら人差し指を左右に振ったのが見えた。
ザァァァァァッ
途端に大量の雨が、バケツをひっくりかえしたように降ってくる。