絶対零度の鍵

微かに聴こえる泣き声に、右京は飛びながら周囲を見回した。



そして、気づく。



怪物が狙う存在に。



ちょうど町の外れの傍にある、井戸がある広場。



小さな泣き声はそこから聞こえてくる。



しゃがみこむ、幼子。



あと一跳びの所まで迫る獣。



なんてお決まりな展開、と内心舌打ちしながら、右京は速度を上げ、姿を消した。



獣がその牙を剥き出し、幼子にまさに襲いかかろうと鋭い爪を振り上げた。



ガシュッ



獲物を確実に捕らえた筈の爪は、井戸に当たって粉々にそれを破壊した。



そこから滲むどす黒い毒は、傍にあった草木を溶かしている。
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