絶対零度の鍵

「遅いんだよーだ」




右京は小脇に幼女を抱えながら、獣の背後であっかんべーをする。



グルルルルルルル



苛立ちを顕にしながら野獣は振り返り、民家の屋根の上に立つ白銀の髪の少女を威嚇した。



びっくりして泣くことも忘れてしまった幼女は、ただただ自分よりも大きい女にしがみ付く。




「あんた、ちょっとあたしの羽にしがみついててよね」




右京はそう言うと、獣と睨み合ったまま、幼女を自分の背中にぽんと抛(ほう)る。



グワァァァァァァ



自分の意思を失くした獣の目は白く濁っている。



そしてよだれをだらしなく垂らして、本能のままにただただ吠える。



その小さい女子を寄越せ―と。



剥き出しにされた歯茎と牙は右京に向けられた。
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