絶対零度の鍵
横断歩道で信号待ちしていると、尭がそう言って覗き込んでくる。
「…そう?」
「うん!ねぇ、夏休みに何か良いことでもあったの?」
「………別に。」
「何その間!怪しい!」
「何もないって…ほら青になったよ。」
隣でぎゃーぎゃー言う尭を横目に、僕は横断歩道の白い部分だけを踏むことに集中した。
予備校の前に着くと、他校の顔見知りが何人かいて、僕等を見てひそひそと話し込み、尭を拉致った。
きゃーきゃー言う女共の横を抜けて、僕は教室に向かう。
中に入って、適当な席に座り、机の上に鞄を置いた。
いつだか、3人でここに座ったなとぼんやり思い出し、笑えた。