絶対零度の鍵
溝端も、尭も、夏休みの出来事を、覚えていなかった。
右京のことすら、誰も知らない始末だ。あの、小松でさえ。
なのに、僕だけに残されている記憶。
あれは、夢だったのか、と何度も考えた。
蓮貴の名前を叫んだまま、目を覚ましたらベッドの上だったから。
だけど、確かに居た筈の兄貴は家に居ないことになっていて、僕は一人っ子だった。
両親の期待が急に僕に圧し掛かるようになり、兄貴って大変だったんだな、と苦々しく思っている。
兄貴に対する記憶も、僕以外の人間は持っていなかった。
僕自身がとち狂ったのか?
そういう風にも考えた。
何しろ、証拠が何もないのだ。
リアルに残っている僕の記憶以外は。
―誰か、教えてくれよ。
そう思った時だった。
「え、今日、流星群が見えるの?」
授業中、こそこそと後ろの席の奴らがしゃべっているのが耳に入る。
「よくわかんないんだけど…場所が特定できないらしいよ。」
「なんだよ、それ。流星群ってそんな不確かなものじゃない筈だろ」
ガタン!
「どうした?望月…」
突然立ち上がった僕に、教室中の視線が注がれる。
黒板に数式を書いていた先生も首を傾げている。