【壁ドン企画】 どっち?
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「女が……嫌いだと聞いてたんですけど」
非常階段で行われた、相変わらず突然で強引な行為を終えた専務の背中に聞く。
さきほどまでは脱いでいたスーツも、もうすっかり羽織られて乱れていた呼吸も静かに落ちついている。
本気でかかれば私でも取り押さえられるんじゃないかと思うほど華奢な身体つきだけれど、そんなハズなかったと身を持って知ったのはもう半年以上前の事。
やっぱり、ここでだった。
女が嫌い。そもそも人が嫌い。だから仕事以外の会話はしない。でも若いし美形。すごく美形。抱かれたい。いっそ抱きたい乗りたいetc。
それが、入社して早々に聞かされた専務の噂だった。
そんな噂を聞いてから数週間が経った頃、初めて目にした専務は……噂通りキレイな顔立ちをしていたけれど。
それ以上に寂しさみたいなものを感じた。
儚い、という表現が正しいのかもしれない。
男にしては色素の薄い肌に髪。
浮かべる表情は無で、瞳に色も光もない。
打ち寄せる波に一歩足を踏み入れれば足元から砂のようにさらさらと消えていってしまうような、いつでも消える準備をしているような、そんな危うい雰囲気だけをまとっていた。
……いや、もちろん、服もまとっているけれど。専務が少しおかしいのは紛れもない事実だけれど、そういう類の、見るからの変態ではない。
専務のおかしさは、心の病をこじらせちゃいましたって感じの、厄介系おかしさだ。
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