【壁ドン企画】 どっち?


見た瞬間。
無色。それは彼の事を言うんだろうと思った。

ないに等しい。そしてそれを彼自身も望んでいる。
だからこそ。

『……なぁ』

伸ばされた手を、最後まで本気で振り払えなかったのかもしれない。
振り払えばその手から消えていってしまう気がしたから。

『おまえって、キャパでかい?』

でかいです。多分。でも、狭い。

答えない背中をぼんやり眺めながら、乱された服を整える。
彼がどういうわけか私に触れるようになって少し経つけれど、跡を残された事はない。
まるで、この行為すらなかったかのように。何も残さない。

私が彼に抱いた印象は、何度身体を重ねた今も、最初と変わらないでそこにある。

「私、小柄ですけど人間ですし、凹凸ないですけど女です」

顔半分振り返って見下ろした専務は、何を言い出したんだって顔でこちらを見るから。

「嫌いなモノに触れる理由を考えてたんです」

と、答える。

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