それは…好きだから。(樹生side)
 声をかけようと歩き出そうとした時、彩佳が一人でないことに気付く。

 男と一緒。

 よく見ると相手は和田課長。彩佳の直属の上司。

 書類を広げて二人で見ていた。
 課長が何か指示を出しているんだろう、紙の上を彼の指が滑る。
 それを熱心に目で追って、相槌を打って。

 課長が何を話したのか知らないが、彩佳が笑った。
 課長も笑っている。
 冗談でも言ったのかもしれない。彩佳の手が一瞬、課長の腕に触れた。


 ミスを許さない厳しい人だから、緊張してよくしゃべれないとか
 苦手だとか言っていなかったか? 

 それなのに……何で笑ってるんだよ。
 いつの間に親しくなったんだよ。
 それにボディタッチって、他の男に気安く触んなよ。

 俺の頭の中はぐちゃぐちゃだった。


 話は終わったのか立ち去っていく和田課長の後ろ姿に
 彩佳は深々と頭を下げる。

 上司と部下の当たり前のその姿さえも癇に障った。


 俺は嫉妬を通り越して怒りに拳を震わせていた。
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