それは…好きだから。(樹生side)
 口腔内を蹂躙するように
 じっくりと舐めて舌を絡ませる。

「あっ……んっ……っふ……んんっ」

 角度を変えて何度も繰り返すうちに、
 彩佳の身体から力が抜けて書類が床に落ちた。

 彼女の腕が背中に回り、スーツを握りしめてきて、
 それに気を良くした俺は更に口づけを深めていった。

 しばらくして落ち着きを取り戻した俺は唇を離して、
 彩佳が息をととのえている間に
 床に散らばった書類をかき集める。

「はい」

 集めた書類を彩佳に渡すと恨めしそうな目で俺を睨んでいた。

「どうして? こんなところ誰かに見つかったら」

「うん。ごめん」

 怒りにまかせて取ってしまった行為に謝って、
 俺は口紅が取れてしまった唇を指先でなぞる。

 すっぴんの唇が艶めかしくて、ふっくらとした感触が気持ちいい。

「だから、社内でこんなことしないで」

 
 彩佳が咎める口調で俺の手を握って動きを遮った。
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