それは…好きだから。(樹生side)
「樹生。ここ会社だから」

 焦ったように身を捩って腕から逃れようとする。
 逃がせるわけないのに。

 それに肝心なことを言っていない。

「分かってる。少しの間だから、ちゃんと聞いてほしい。それ、彩佳の勘違いじゃないから。和田課長にも嫉妬したし、当然、他の男にもするし。お前が思っているよりもずっと、俺は嫉妬深いんだってこと。分かった?」

 そういって顔を覗き込むと、彩佳はびっくりした様子で、俺を見ていたかと思うと、
 こくこくと頷いて、所在なさげにどぎまぎと俯いてしまった。

 こんなところもかわいい。

 しっかりしている所もあるのに、頼りなげな純な所を見せられるとまいってしまう。



「そういえば、今日デートの約束していたよな?」

「えっ?……」


 俺の言葉に彩佳の表情がサッと変わった。
 明らかに覚えてないって顔だった。
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