ソフレ
大好きなひととき。
「ねぇ、幸花(さちか)。
 オレが眠るまで、ぎゅっと抱きしめて?」

 わたしのマンションの寝室の、ダブルベッドで、二人きり。

 透(トオル)は上目使いでそう言った。


 か……可愛い。


 彼とは、毎日職場で会うたび、喧嘩ばかりしてる。

 けれども、こんなふうにおねだりする透は、まるで迷子の仔犬みたい。

 日頃、どんな関係であれ。『幸花がいないと上手く眠れないんだ』なんて、大きな黒目がちの瞳を、うるうる滲ませて見つめられたら『イヤだ』なんて言えない。

 わたし、本当は男のヒト苦手のはずだった。

 子どもの頃からずっと、義理の家族に酷いいたずらをされてて、男性不信が今でも続いているから。

 けれども透だけは別だった。

 何しろ、めちゃくちゃ好みのイケメンだ。

 何より絶対わたしのパジャマを脱がそうとしないし、服の上からもダメなところも触らないって判ってるから、透なら安心できる。

 だからわたし。ベッドに横になったまま、自由な片手を広げて透に言った。

「おいで?」

「ありがと」

 透は素直にうなづくと、わたしをそっと抱きしめる。

 お返しに、わたしも透をぎゅっと抱きしめた。
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