ソフレ
愛しいヒトとの秘密の約束
「うっせえな! ケガなんてしてねぇよ!」

「ヒトが心配してんのに、なによこの!」

 ……クソガキ!

 と、怒鳴る寸前、わたしは思いとどまった。

 売り言葉に買い言葉、とはいえ。わたしは、オトナ。しかも高校の養護教諭……通称保健室の先生だから、自制が必要だ。

 ……とは、思ってたけども。

 へらっと『悪りぃ、ガラス割った~』って言う生徒相手に、額に浮いた怒りの青筋はなかなか消せない。

「早く用務員室からガムテープと窓塞ぐ段ボールを貰ってきて!」

 もう一度怒鳴ると田中君はようやく、肩をすくめて用務員室へ駆けてゆく。

 その背中を見送って、割れた窓ガラス片を片付けていると、空いている扉が、コンコン鳴って、保健室に入って来る人がいた。

 二年を担当している、西尾先生だ。

 わたしと十も離れたオジサンなのに『イケメン教師』と言われている上。

 親がこの学校の創立者だからって、良い気になっているんじゃない?

 学校内は全部自分の部屋だとでも思っているらしい。

 西尾先生はこっちの迷惑を顧みず、勝手に保健室に入って来た。
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